エンターテイメントトップニュース&トピックスインタビュー&特集イベントレポート芸達者データベース

 

2006年12月25日(月)、1960年に公開されたセミ・ドキュメンタリー映画『エラブの海』(西尾善介監督/63分/35mm/カラー/日本映画新社)の試写イベントが、浅草の木馬亭で開催された。
12月25日と言えば世間はクリスマスだが、今から53年前(1953年)、奄美群島がアメリカから「クリスマスプレゼント」と称して日本へ返還された日でもある。
平和を取り戻した静かな奄美の島々で撮影されたこの作品は、世界初のシネマスコープ水中カラー撮影に成功した歴史的映画だ。そして劇中歌に、当時18歳の朝崎郁恵の唄が収録されている。

※この試写イベントはDVDの制作決定を記念したものであり、DVDの発売日等は現在全て未定です。

 

会場である木馬亭は、芸能の根付いた町・浅草らしく、昭和の時代の面影を色濃く残す情緒たっぷりの演芸場。130程の席も満席となり、当時の島を偲ぶ年配の方々の姿も多く見られた。そして午後6時半、沖永良部島出身のお笑い芸人、甘味けんじ氏の前説で、イベントはスタートした。

『エラブの海』は、奄美群島の美しい海を舞台に、ある小さな島に暮らす家族――老人、孫、海女である2人の娘たちの生活を描いている。今のように物が無くても、自然には無数の不思議が存在し、そこに人間の知恵が生まれる。子供が自然の中を逞しく駆け回る様子も、観客の懐かしさを呼び起こしたに違いない。また、繰り返し映し出される海女たちの潜水シーンは、奄美の海の美しさをことさら強調し、観る者をぐいぐいとその世界に引き込んでいく。彼女たちは水深30メートルから40メートルという深さまで素潜りし、真珠を採取する。豊かに茂る珊瑚礁や群を成すとりどりの魚たちの中を、白くしなやかな女体がひらひらと舞う様は、極めて美しく神秘的だ。そしてこれが、世界の映画史上初の水中カラー映像であると思うと、感慨深いものがある。更にこの映画は奄美群島の文化などにも触れており、それだけでも貴重な映像と言えるだろう。 (ちなみに、奄美群島に海女は存在しない。潜るのは男性とされている)物質や機械に頼らず、自然の営みに寄り添うようにして暮らす彼らの真摯な生き方は、もはや忘れ去られようとしている、ひとつの文化と時代を象徴しているように思えてならない。

上映後、当時撮影に当たった潮田三代治氏(現在92歳)からのビデオメッセージが流れ、この作品は平和だからこそ撮影することができた映像であり、戦争という苦しみの時代を生き抜いてきた彼らの、平和への願いがそこに込められていると語った。この作品をDVDとして残すことには、様々な観点からも大きな意味のあるものと言えるだろう。

 

朝崎郁恵が登場し挿入歌を1曲歌った後、今回エラブの海DVD制作実行委員会発足の発案者であり、このイベントの主催者でもあるゆめ企画の喜原氏が登場し、幼少の頃にこの作品を観て痛く感動し、ぜひDVDにして後世に残したいと思い至ったと、緊張しながらもその熱い想いを語った。そしてヤマハミュージックの大里氏や、この映画を始め、平和への願いを込めた作品を制作し続けている日本映画新社、文化放送のプロデューサー、音楽評論家の湯川れい子氏らからも挨拶があり、濃いお話で会場を大いに沸かせた。

第2部は、いよいよ朝崎郁恵のライブ。ステージ中央には、この日のために送ってもらったという沖永良部島の砂が盛られていた。今回のピアニストはシンガーソングライターのMITO。朝崎郁恵の唄の呼吸に合わせて伴奏を弾くことは非常に難しく即興性が要求されるが、彼は初めてで緊張すると言いながらも、うまく合わせていた。また、平井堅張りの歌唱力で自身の持ち歌も聴かせてくれた。
朝崎郁恵の『嘉義丸のうた』では、戦争の非情さを訴える歌詞と彼女の温もりと深みのある歌声に、涙をぬぐう人の姿も多かった。辛かった戦争の日々や、友や家族を失った悲しみを思い出していたかもしれない。様々な思いが脳裏を駆け巡っていたことだろう。
六調の後、アンコールで唄った『逢いたくば』も年配の方々には聴きやすいメロディーラインで、皆じっと耳を傾けていた。最後の『ふるさと』ではピアノ伴奏付きでMITOと交互に歌い、いつもとは少し雰囲気が違ったが、やはり胸に迫り来るものがある。さらに、客席からのリクエストに応えて『島育ち』を唄う場面もあり、温かい雰囲気のライブとなった。この日初めて朝崎郁恵の唄に触れ、CDを買い求めて行くお客さんも多かった。彼女の唄が、心に深く深く響いたに違いない。